HOW TO・・・
桃城 センパイの場合
部活終了後のクラブハウス・・・
「誰か探してんのか?越前??」
学生服に着替え終えたリョーマが何やらきょろきょろしているのに、こちらも着替え終えた桃城が声をかけた。
「見ての通りここにはお前とオレしかいないけど・・・?」
「・・・そっすね。」
リョーマは軽くため息をついてコロッケパンをむさぼり食っている先輩をちらり、と見、仕方ないか、というように肩をすくめた。
「ねぇ、桃先輩?」
「ん?」
「・・・は?」
唐突な後輩の言葉に桃城の動きが固まった。
そのまままじまじと後輩の顔を見ると、さすがに照れているのか視線が下を向いている。
「・・・落ちましたケド」
・・・リョーマの視線は桃城の手から落ちたコロッケパンにと注がれていて。
「おわっっ・・・!」
桃城は慌てて床にへばったコロッケパンを取り上げる。
「・・・それ、食うんすか?」
「当たり前だ!お前5秒ルールを知らないのか?」
「何すか、それ?」
「地面についてから5秒はセーフ、ってことだ。」
「でも、それ落ちてから5秒以上経ってましたけど?」
「・・・男は細かい事は気にしないんだって。・・・で、話に戻るけど・・・お前、今、何ていった?」
桃城の問いにリョーマは肩をすくめてもう一度繰り返した。
「セックスした事あります??」
「・・・・・・」
・・・別にこんな発言でたじろくほど純情でもないのだが、猥談なんかするのは合宿の夜なんかのような、いわば非日常の空間で行われるもので、しかも大人数なんかでするものだ、と桃城としては思っているわけで。
しかもしかも、何の前触れもなく、照れもなく、こんな会話を持ち出した後輩にちょっと・・・いや、かなり面食らっていた。
「で、越前クンとしてはどうしてオレにそんな事を聞くのかな??」
桃城はひとつ咳払いをして、ちょっと態勢を立て直し、リョーマを見た。
「だって、さっき先輩も言ったっしょ?他の人に聞きたくても、ここにはアンタとオレしかいないじゃん?」
リョーマは桃城をちらり、と見ると肩をすくめる。
「でも、やっぱ人選ミスっした。・・・じゃあ」
「・・・ちょっと待て!」
売られたケンカは買うぞ!(何もケンカを売っているのではないのだが・・・)
桃城は変な意気込みでリョーマを呼び止める。
「何だよ、その人選ミスって。オレが何にも知らないとでも思ってるんじゃねえのか?もしかして??」
その言葉に振り返りリョーマが眉を上げる。
「違うんすか?」
「・・・オレをバカにしてるのか?」
「ふーん」
リョーマが目を丸くしてそう息巻いた桃城を見つめる。
「・・・何だよ?そのふーん、って。」
「いや、結構意外だったんで。」
リョーマが桃城の言葉につけっとそう返す。
「・・・オレだって意外だったよ。」
桃城がそんなリョーマをじっと見て。
「お前、そんなちっちゃいナリしてても男だったんだなぁ・・・」
「・・・どういう意味っすか?」
その発言にじろり、と自分を睨んだリョーマに桃城は笑う。
「だってそういう話に興味を示すなんてな〜。ま、お前にはちいっと早すぎる気がしないでもないけどな。」
「年齢には関係ないんじゃない?そういうの。」
そんな桃城のちゃかしを軽くいなして肩をすくめるリョーマ。
「遅かれ早かれそーいう事って興味持つもんでしょ?」
「・・・まぁな。」
自分のツッコミに照れるでもなくたんたんと答えるリョーマに“可愛くないな”と桃城は眉を寄せる。
「でも、そういう事聞くって事は・・・いるのか?好きな奴?」
「一応。」
「・・・で、付き合ってるのか?そいつと。」
「一応。」
“・・・コイツ、やるな。”
これも照れるでもなくさらり、と言葉少なに答えるリョーマに桃城の片眉がぴくり、と動く。
「で、相手はタメか?それとも年上か??・・・まさか年下・・・ってこたぁねえだろうな?」
・・・もし相手が年下だとしたらそれこそ犯罪だ。大体コイツにしたって数ヶ月前は小学生だったんだし・・・と、
桃城は今更ながらその事に気付き、内心冷たい汗をかきながらリョーマを斜め見る。
「年上っす。」
「年上か・・・」
そう言ったリョーマに内心ほっとしながらも、近頃の子供の早熟ぶりに桃城はため息をつく。
「・・・で、お前としては相手に対して恥をかきたくないって訳か。」
「恥かくっていうか、やり方がいまいちわかんないんっすよね。オヤジの本とか見ても。」
そんな桃城を尻目にたんたんとリョーマは話を続ける。
「やっぱあるんっしょ?それなりの方法?」
「・・・その前に、お前、その・・・役に立つのか?」
そんなリョーマに桃城は咳払いをして肝心な事を聞いてみる。
「相手はほら、その、いいにしたってお前がやれないんじゃ話になんねーだろ?」
「人に対して使ってみた事ないけど、それなりの反応はあるっすよ。」
自分の下半身にちらり、と視線を送ってよこした桃城にリョーマは何を言っているんだ、と言わんばかりにそう言ってのける。
「だからこうやって聞いてるんじゃないっすか。」
「・・・・・」
照れながらというならまだしも、普段の表情のまま内容だけはあからさまなリョーマとのその会話をどう続けていいやら桃城は少々困り果て、頭をかいて宙を仰ぐ。
「その・・・ま、やり方っつったってその場の雰囲気とかで変わるもんだしそういうのって何つーの、ま、本能的なもんだからな〜。」
軽く咳払いをして桃城はまず無難なところから話し始めようと口を開く。
「何となくやれちまうもんだろ?相手だって様々だし。ま、やったもん勝ちっていうか当たって砕けろっていうか、そんなとこじゃねーのか?」
「・・・何か随分大ざっぱっすね?・・・桃先輩らしいけど。」
「るせ。でもそーいう時になれば案外何とかなるもんだろ。お前の場合、相手は年上なんだろ?だったらリードしてくれるんじゃねぇ??」
“・・・使えないなぁ・・・”
答えになっているようななっていないような桃城の返答にリョーマは軽くため息をつき、質問の角度を変える。
「やっぱ最初って痛いもんなんすかね?」
「・・・相手が初めてってんならそうだろうな。・・・それっぽいのか?」
「聞いたことないからわかんないすけど・・・多分。」
「初めて同士で相手が年上、ねぇ・・・」
その答えに腕を組み、唸る桃城。
「そりゃあ、ちょっと厄介かもな〜」
「厄介なのは承知っすよ。」
リョーマは肩をすくめてそう言う。
「じゃなきゃこんなに悩まないっす。」
「悩んでるのか?お前??」
「・・・一応。」
そう言いつつもとてもそうは見えない後輩の態度に桃城は軽いため息をついて。
「・・・なぁ、越前。」
不意に桃城が首を傾げて、リョーマの方に身を乗り出す。
「何かさ、さっきから聞いてると一応とか、多分とか曖昧だな?」
さっきから表情ひとつ変えずに自分を翻弄するこの後輩を少しいじめてみたくなった桃城はわざと意地の悪い事を口にする。
「もしかしてそいつに遊ばれてんかもよー?そんな真面目に考えてると、すこーん、ってすっ転ばされたりして。」
「・・・・・」
「案外年上って食わせもんだからな〜。初めてなんて雰囲気、“ふり”かもしんないしな〜」
「・・・そうかもしれないっすね。」
一瞬、むっとしたような顔を作るが、案外素直にそう口にして。
「でも、別にオレは構わないっすから、そういう事。」
そう言い切ったリョーマに桃城はちょっと意外そうに目を見開く。
「・・・何すか?」
「いや・・・お前、マジなんだな〜と思ってさ、そいつに。」
「・・・悪いっすか?」
・・・やっと感情らしい感情を見られたと思ったら、自分を見るリョーマの瞳は燃え立つように激しくて、やれやれと桃城も肩をすくめる。
「お前がそんなにマジになる奴って、フツーの奴じゃないよな?」
そんなリョーマの様子に、桃城が腕を組み首をひねる。
「大体お前みたいな子供にコナかけて、そこまでのぼせ上がらせるなんざ、よっぽど手馴れてる奴だな。
・・・やっぱりそいつって食わせもんだと思うぜ。」
せいぜい気をつけないといけないなぁ・・・そう言って桃城がにやにやと笑う。
「で、そいつ、どんな奴?もしかしてオレが知ってる奴??」
「そうっすよ。」
あっさりと頷いたリョーマの答えに桃城が身体を乗り出す。
「え〜、誰だよ、誰?教えろよ?」
「不二先輩。」
「・・・は?」
さらり、とごく自然にリョーマの口から零れた言葉に桃城は耳を疑う。
「・・・聞こえなかったんすか?」
リョーマは軽くため息をついて同じセリフを繰り返す。
「だから、不二先輩なんすけど。」
「・・・・・」
その答えに沈黙する事10数秒・・・
その間に桃城に思いっきり握りしめられたパンから中身のコロッケが飛び出して床へとダイブした。
「・・・落ちましたケド・・・」
「えええええ〜」
「・・・そんな驚く事っすか?さっきも落としてたじゃん。」
「ばっ、だ、誰がパンの話をしてる!お前、マジか?それ??ホントかっ?」
「・・・一応。」
自分の問いかけに、初めて照れたように首裏で手を組み、天井を見上げたリョーマの様子に桃城は酸素不足の金魚のようにぱくぱくと口を開け閉めした。
「・・・やっぱり人選ミスだったみたいっすね?」
そんな様子の桃城を見てリョーマは肩をすくめる。
「だって、お前・・・その・・・」
そんな答えにテンパらない奴がいるかっ、内心で激しくツッコミながらもなかなか声が言葉にならない桃城。
「どうしたの?随分賑やかだね?」
と、クラブハウスの扉が開き、柔らかな声と共に現れた人影に桃城は固まった。
「あれ、もう終ったんすか、用事?」
そんな桃城をよそにリョーマが声をかける。
「うん。待たせてゴメン。」
そう言ってリョーマに笑いかけている彼に桃城はぎこちない声で呼びかける。
「・・・不二・・・先輩・・・?」
「ん?」
不意に脇からガチガチの声で桃城に呼ばれ、不二が訝しげに彼を振り返る。
「どうしたの?桃?」
「あ・・・いや、その・・・」
後は言葉にならずただただ不二の顔を見ている桃城に不二は不思議そうに小首を傾げる。
「僕の顔に何かついてる??」
「いや・・・あの・・・」
「ホント、どうしたの?桃??」
そう言っていつものように柔らかく綺麗に笑いかける不二に、桃城のドキマギ&テンパってる度はますますアップする。
「帰らないんすか?先輩達??」
そんな空気に我関せずといった感じでリョーマはスポーツバックを手にする。
「じゃ、桃先輩、お先っす。」
未だ驚きの覚めやらぬ様子の桃城にリョーマはしれっとそう声をかけ、
「肝心の所、聞けなくて残念っすけど?」
少し声をひそめてそう言うと、ちょっと笑って、そのまますたすたと歩き出す。
「あ、桃先輩。」
と、数歩行ったところで何事かを思い出したようにリョーマが桃城を振り返る。
「!」
「男は攻めあるのみ、でしょ?・・・たとえ相手が食わせもんでも何でもね。」
そう言ってにっと笑ったリョーマに桃城は再び石化する・・・
「何の話?」
「別になんでもないっす。・・・行きますよ?」
2人の話の内容が読めず、訝しげに小首を傾げる不二の腕をさりげなく引き、リョーマはクラブハウスの扉を開ける。
「じゃ、また明日。」
しかし、そのツッコミはあまりの驚きのため言葉にならず、去っていく生意気すぎる後輩とその恋人の背中をただ目を見開けるだけ見開いて見送る桃城だった・・・
続く・・・?